[表具師] 奥村吉兵衛(おくむらきちべえ)

 千家十職のひとつ、表具師(ひょうぐし)の家である。 十職とは、 十の家で千家茶道具のすべてがととのうよう選ばれた職家の集団である。 表具師は主に紙の茶の湯道具、掛け物(掛け軸)や風炉先(屏風)、釜の敷物の一種である紙釜敷などを製作する。 当代は12代目で、千家の茶室のふすまや障子、腰張などの建具類も手掛けている。
 奥村家はもともと江州(滋賀県)佐々木家の流れをくむ武士の家系で、近江国北部の「谷の庄」の郷士であったとされる。主家浅井氏の滅亡後、浪人となったが、のちに加賀百万石の祖、前田利家に仕官。加賀藩士の家系となった。 奥村家の次男であった吉右衛門清定は京へ上り、正保3年(1646年)母方の家業の表具師を継いだ。この清定が初代である。承応 3年(1654年)に表具屋業を開業、屋号を「近江屋吉兵衛」とした。千家とのつながりは二代になってからで、元禄11年(1698年)表千家六代覚々斎の取りなしで、紀州徳川家の御用を務めるようにもなった。
 釜敷は古くは釜置ともいい、初炭点前で釜を風炉や炉からあげて畳に置くときに使った。流儀によって材質や枚数が異なるが、たいていは檀紙や鳥の子紙、美濃紙などを30枚前後重ねて四つ折りしたものを言う。炭点前を略すときは、紙釜敷に香合をのせて床に飾る。 千家では紙釜敷を正規のものとしており、古くは利休が吉野紙を用いたといわれる。

「背景」のひとつである表具はまさしく茶の湯の景色の裏方

 さて、茶道では道具の一つが際だって目立つことがあってはならない。表具であれば揮毫の筆致と仕立が調和しなくてはならないし、風炉先(屏風)であれば点前座の道具類を引き立たせなくてはならない。襖(ふすま)や障子も、茶室の造りや素材にとけこんで初めて、それら道具に命が吹き込まれるといえる。「背景」のひとつである表具はまさしく茶の湯の景色の裏方である。それぞれの道具は役割を生かすために、互いの存在や勝手を認めなくてはならないことを奥村吉兵衛の道具はさりげなく教えてくれる。

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