表千家_[十二代]_敬翁宗左_惺斎

十二代宗匠、惺斎についてまず知っておきたいのは、彼が時代に応じて3種の花押を使っていたことです。明治25年に正式に宗左を襲名し宗匠となるまでの宗員時代は、幼名の「与太郎」にちなみ「与」の字を意匠化したものを使い、代を継ぐと俗に言う「飛行機判」の花押になります。初期の飛行機判は比較的平たく、後に伸びやかに描かれるように変わっていきます。そして晩年を迎えた大正3年からは「自動車判」を呼ばれる丸みを帯びた花押に変わります。それは明治、大正、昭和とめまぐるしく移り変わるの3つの時代を生きた惺斎の心持ちの表れだったのかもしれません。 明治20年に京都御所で明治天皇に茶を献じた碌々斎は、その5年後に惺斎に家督を譲りますが、その後長く親子二人三脚で茶道を盛り立てていきます。明治28年に了々斎七十回忌の茶事、明治31年には豊公三百年祭で太閤垣の献茶、明治33年には如心斎の百五十回忌などなど、絶え間なく茶事と献茶が繰り返し行われ、表千家の存在感も増していきます。大正から昭和初期にかけての景気の好転もあって、表千家は再び隆盛を極めます。

一冊の書物が編まれるほど

惺斎の好みの茶道具は、歴代の中で圧倒的に多く、後にそのために一冊の書物が編まれるほどです。十職家の道具はもとより、地方のものを多く取り入れている点も他の宗匠と異なります。焼き物では萩焼、薩摩焼、瀬戸焼、膳所焼などの窯から、指物で箱根細工、鎌倉彫といった関東からもお好みが揃えられています。時代が進み、地方との距離も狭まったことや、さまざまな文物が世界各地から集められ、人々の価値観も大きく動いた時代です。茶道でもさまざまなものが好まれ、集められたのは、そんな時代を反映してのことかもしれません。それらは総じて侘びとともに華やかさをにおわせ、時として豪奢な感のものもあり、時代を感じさせます。一方で惺斎の自作の道具は、他の宗匠に比べると多くはありません。茶碗で「銘香十種」、「帰去来」などごくわずかに著名なものが残されています。

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