上村淳之とは?鳥を愛する日本画家。現代花鳥画の基礎を築く
上村淳之(うえむら・あつし)は、現代花鳥画の礎を築き上げた日本画家です。祖母は美人画の大家・上村松園、父は日本画家・上村松篁という、日本画家の家系で育ちました。画家としてだけでなく、教育者としての功績があります。
鳥の愛好家としても知られる上村淳之は自宅で1000羽以上の鳥を飼育しながら花鳥画を描き続けています。鳥への温かな目線を通して人間の内面をも映し出すような作風が特長です。
この記事では、そんな上村淳之の生い立ちと画家・教育者としての人生、作品の魅力についてご説明します。
花鳥画家であり教育者、上村淳之のプロフィール
三代に渡る日本画家系に生まれ育つ
上村淳之は、1933年4月12日、日本画家・上村松篁の長男として京都に生まれました。本名は淳(あつし)といいます。祖母は女性として初めて文化勲章を受章した日本画家・上村松園です。京都画壇の総帥の家系に育まれた淳之は1953年、京都市立美術大学(現・京都市立芸術大学)日本画科に進学します。それまで理系の道に進んでいました淳之でしたが、絵を描きたい気持ちが大きくなり、両親の反対に遭いながらも美術の道へと進むことを決意しました。
淳之は在学中からその画才を発揮し、新制作協会第20回展に「水」を出品、初入選を果たします。1959年には美術大学を修了し、同年に第6回朝日新人展に「沼」を発表、さらに初めての個展を開催するなど、順調に画壇への道を歩んでいきます。
淳之が得意としたのは父と同様、花鳥画です。大学進学を機に、松園が晩年を過ごした奈良市にある「唳禽荘(れいきんそう)」に移り住み、好きだった鳥の飼育を始めたことが花鳥画制作のきっかけとされています。じっくりと生態を観察しながら生命観あふれる鳥たちを表現しました。
上村淳之、画家・教育者としての人生
上村淳之は、花鳥画家としてだけでなく、教育者としての面も持っています。ここでは双方の功績を順にご紹介します。
1972年、自身が学んでいた京都市立芸術大学で助教授に任命されたことから、淳之の教育者としての道が始まりました。
1978年には、第5回創画展へ「晨(あした)1」「晨2」(双幅)を出品。この2つの作品は文化庁が買い上げるなど高い評価を受けています。1980年、第7回創画展へ出品した「雁(月明)」「雁(雪中)」では創画賞を受賞しました。
1984年に京都市立芸術大学教授となったあとも、京都画檀日本画秀作展に毎年続けて出品するなど画家として、教育者として精力的に活動していきます。
上村家の作品を所蔵する松柏美術館を開館。日本画の道を後世へつなぐ
京都市立芸術大学教授として教壇に立つ傍ら、多くの作品を手掛けた上村淳之。1992年には新宿・伊勢丹にて「上村淳之―四季の譜・鳥に遊ぶー」が開催されました。同年、京都府文化功労賞を受賞します。
1995年、「雁金」にて第51回日本芸術院賞を受賞します。1997年には、「画業三代の精華上村松園・松篁・淳之展」が開催され、日本画家・京都画檀の金字塔と評価されました。
教育者としては、1999年から2004年まで京都市立芸術大学副学長に就任。2002年には日本芸術院会員となっています。
2013年には文化功労者に選出、2020年には、旭日中綬章を受賞しています。
1994年には、松園・松篁・淳之と、三代の作品を所蔵する松柏美術館(奈良県)を開館しました。淳之自ら館長となり、作品の保管や展示を行っています。また、松柏美術館では広く日本画の普及と作家の育成を図るため、特別展や公募展も開催しています。自然が身近から消えつつある現代社会で花鳥画の道へ進む若者が減少していることを危惧し、日本画・花鳥画の魅力を伝えるために現在も活動を続けています。
上村淳之の作品の特徴。花鳥画を通して人間の内面を描き出す
上村淳之が花鳥画を描き始めたのは、大学進学の際に松園が晩年を過ごした「唳禽荘」に移り住み、大好きな鳥を飼育しはじめたことがきっかけでした。現在その約260種、1600羽以上を飼育しており、愛鳥家としても知られています。多くの鳥との暮らしの中で、じっくりと生態を観察して見出した「人間と自然との共生」の視点は、淳之の自然観、人間観や思想へと繋がっていきます。日々の鳥たちとの会話により命の尊さを学んでいるのでしょう。すべての生き物には神仏が宿り、人間もそのひとつにすぎないという平等な世界観が、淳之が描く花鳥画の源となっています。
地道な努力の上に素晴らしい感性や能力が開花すると考えており、丁寧な観察と写生を第一に基づいて作品を作り上げています。写生が第一といっても、西洋の写実的な絵画のように単に動植物を描くのではなく、キャンバスには個人の感性や情念など、内面的なものをも映し出すのです。多くの鳥たちに導かれるように淳之の表現力は深まっていくのでした。日本画の伝統的な様式美を理解し、継承した緊張感のある空間表現からは、品性の高さと芸術性の深さを感じさせます。
父・松篁からは同じ花鳥画家として写生を基礎とした表現方法を学びました。祖母・松園からは、松園が美人画で目指した「真・善・美」の世界を、淳之もまた花鳥画を通して具現化しているといえるでしょう。
上村淳之の評価とは?花鳥画の中でも鶴が人気
花鳥画という東洋独自の絵画ジャンルの中で、唯一無二の世界を築き上げた上村淳之は、今や日本を代表する日本画家、京都画壇・日本画壇を牽引する存在となりました。
画家としての功績は去ることながら、京都市立芸術大学にて長年後進の育成指導にあたるなど、教育者としても高く評価されています。各地の美術館でのギャラリートークや、小中高生を対象とした講演会なども積極的に行っており、「日本画とは何か」ということを伝え続けています。
淳之の作品の中で花鳥画が人気なのは言うまでもありません。代表作ということもありますが、絵そのものが上品で美しいため、一般でも高く評価されています。中でも特に「鶴」は人気が高く、高価買取に繋がりやすいモチーフです。直筆作品は大量に流通できないため、希少性が高く高価買取が期待できます。
2012年には、京都市立美術館にて「上村淳之展~作家の眼」展が開催。また自身が作品を解説した「傘寿記念・上村淳之展」が巡回開催されるなど、その画業を紹介する展覧会が数多く開催されています。
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上村淳之の代表作
上村敦之の代表的な作品を6つご紹介します。
尉鶲
錦秋
雪中小禽
鳥の四季
上村淳之は四季と鳥を組み合わせたシリーズを多く手掛けています。代表的なものは、春は鶯、夏は瑠璃、秋はコガラ、冬は丹頂を描いた作品です。
桜、竹、紅葉、雪など、季節を表す樹木と可愛らしい鳥たちの姿は、温かみと優しさを感じさせます。どの作品からも、明るく洗練された雰囲気を感じることができます。
四季花鳥図
2010年、淳之が77歳の頃、大阪新歌舞伎座の緞帳の原画として描かれた作品です。
四季折々の木々とそれに集まる小鳥たちを描き、同一画面上に季節の移ろいを表現しています。四季を描いたものは花鳥画としては珍しく、時間や空間を表すための主役として鳥たちが描かれています。背景は銀一色で、日本の伝統的な装飾美も取り入れています。どこか可愛らしさを感じるこの作品は、華やかで親しみやすく、心安らぐ作品となっています。
白鷹
2005年に制作された「白鷹Ⅰ」が白鷹をモデルにした最初の作品です。白鷹は、父・松篁が病床で「白鷹が描きたい」と熱望しながらも描くことが出来なかったモチーフであるためか、何度も制作に挑戦しています。
白鷹の白い羽毛は、温かみのある胡粉を使い描かれています。雪が積もる張り詰めた空気感の中、真っ白な鷹が凛とたたずむ姿に、格調高さを感じる作品です。
まとめ
日本画の家系に生まれ、自身も現代花鳥画の第一人者として今なお活躍している上村淳之。作品から伝わる確かな日本画の技術と、鳥たちに対する温かな目線、すべての命に対する尊敬の念は、祖母の松園と同様に「真・善・美」の信念を感じさせます。
上村淳之の作品は近年価値が上がり続けており、買取評価が高い作家の一人です。キズや汚れがついた作品であっても、作品によっては高値で取引されています。上村淳之の作品の買取を検討している方は、お気軽にご相談ください。
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